アントニイ・バークリー『ジャンピング・ジェニイ』(国書刊行会)を読了。
これはたまげた。もともとロジャー・シェリンガムというシリーズ・キャラクタにはあまり名探偵というイメージはもっていない。とはいえ作者バークリーがここまでやるとは思わなかった。
この作品でのシェリンガムの活動といえばもっぱら、殺人犯人と思われる人物をかばうため関係者に偽証をすすめてまわることだけ。しかも、これは当人は知らず読者にのみわかるようになっているのだが、そもそもその犯人の想定がまちがっている。
中盤以降はほとんどユーモア小説の観すらあり、シェリンガムの迷走ぶりもさることながら、事件当夜酔っぱらっていたのをいいことに見ていないことまで見たと証言するよう暗示をかけられてしまうウィリアムスン氏のくだりなどはなんとも可笑しい。
が、被害者がいかに周囲から「殺されたとしても当然」と思われているかをしつこいくらいに描いた序盤のほうに、むしろ読みどころがあるとも思う。バークリーという人の探偵小説作家としての独自性を痛感させられる。