2007年7月29日

鮎川哲也と十三の謎'90ようやく読了

山口雅也「「むしゃむしゃ、ごくごく」殺人事件」
キッド・ピストルズもの。もしかしたら過去に短編集で読んでるのかもしれないけど、読んでたとしてもすっかり忘れてるので初読状態。パラレル英国についての説明のあたりは抜群におもしろい。ミステリの部分は悪くはないんだけど早くも記憶から薄れつつある。なんでだろうな。書き方が理路整然としすぎてるんじゃないかな。そのせいで、発想はけっこうダイナミックなわりにセンス・オブ・ワンダーとかカタルシスが少ない。もうちょっとメリハリがあるといいいと思う。
日影丈吉「壁の男」
本書に創作を寄せているミステリ・プロパーの作家としては唯一のベテラン。タイトルのせいではないけど安部公房っぽくって好きだ。
依井貴裕「緑の密室」
終盤になって「読者への挑戦」が挿入されているのを見て「あ、パズラーだったのね」と初めて気づいたのだが、それにしても登場人物の言動が不自然すぎ。薄っぺらいのに長い。読むのが苦痛だった。
小山正「ミステリ珍宝館へようこそ」
ミステリにまつわるCDやビデオのコレクション自慢。
岩崎正吾「横溝正史と松本清張における「本格派」と「社会派」ということ」
単純な二元論に堕することなく両者の共通点と固有性を摘出する真摯な論考。
戸松淳矩「キング・チャールズの告発」
うーん、微妙。もうひとひねりないときついのでは。
今邑彩「時鐘館の殺人」
我孫子武丸の初期作品を思わせるようなおちゃらけに鼻白む部分が多くてあまり期待はしていなかったのだが、二度三度と楽しめる作りになっていてそこそこ満足。ただし部屋番号のローマ数字について誤植なのか叙述トリックなのか判断に迷う箇所がある。

2007年7月28日

鮎謎90・その3

澤木喬「鳴神」
よく考えたら雰囲気が一番近いのは安部公房だった。終盤まではとにかく読みごたえがある。が、最後にミステリ的な決着をつけようとするところで印象がぼやける。伏線も張りめぐらされてるしネガとポジが反転する気持ちよさも用意されているのだが、どうも据わりが悪くてインパクトが弱い。『いざ言問わむ~』が記憶に残ってないのも同じような原因なのかな。でもこの手の作風であれば今後も読んでみたいものだ。
山崎純「Prize for patience(忍耐賞)」
よくある「すべからく」の誤用を除けば可もなく不可もなし。
黒崎緑「幽霊騒動」
漫才シリーズの第1作らしい。今回初めて読んでみたけど悪くはなさそう。
種村直樹「トリックに使えるかと思ったが」
創作こぼれ話、みたいな感じのコラム。
白峰良介「錯覚コレクション」
同上。
笠原卓「草鞋履きのノウハウ」
同上。ちょっと話題がおっさんくさい。
北村薫「白い朝」
もうすぐ孫が生まれる奥さんがお茶の時間かなんかに旦那に語りかける口調の短編。なので「私」シリーズよりは読みやすい。まぁ最初のうちだけだけど。
小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」創作メモ
原稿用紙にびっしり書かれたメモ。それを7ページにわたってカラー写真で紹介。丁寧ではないけど几帳面な字。
鮎川哲也「子育てに『黒死館』創作の秘密を見た」
「幻の探偵作家を求めて・番外編」第一回、小栗虫太郎の巻。鮎川氏と戸川編集長が虫太郎の三男・宣治氏を訪ねてインタビュー。
葉月つかさ・木智みはる・暮羽けい「薔薇、黒死館、そして虚無 ミステリ界の金字塔に挑戦する身の程知らずの方言座談会」
なんか2時間ドラマのようなタイトルだが、思えばこの1990年というのは東京創元社から『薔薇の名前』が翻訳出版された年なのだった。懐かしい。木智みはるが現在の若竹七海。
服部正「栄光の薔薇」
同じく『薔薇の名前』を論じたエッセイ。今気がついたけどタイトル単なる駄洒落じゃん。

これで半分ちょっとすぎ。

2007年7月23日

鮎哲十三90・その2

「猫の手」は結末もなかなかよかった。つづきを安直に箇条書き。

紀田順一郎「展覧会の客」
例によって例のごとく古書蒐集家の話。
仲英宏「「直木賞」への訣別」
ミステリの読まれ方についての問題提起ないし提言らしいのだが論点が散漫でよくわからない。
河田陸村「世代交代の始まったミステリー界」
「SRの会」が選ぶ年間ベスト10の直近10年間の推移を分析した論考。分析結果のひとつとして「大手出版社の出す文庫・ノベルスは読者から見放されつつある」→「これは粗製濫造によるところが大きい」というものがあり、最後は
 ――とここまで書いたら、陰の声が教えてくれた。「東京創元社も国内ミステリーを文庫で出すらしいぞ」と。
 えー、それ本当? でも、○○文庫や××ノベルズみたいな本は、まさか出さないでしょうね、東京創元社さん。
と締めくくられている。まるで17年後の今日を予見していたかのような言葉だと思う。

逢坂剛「ミステリーと映画の話」
新潮文庫の100冊っていうか……

有栖川有栖「登竜門が多すぎる」
駄洒落はおもしろいんだけど最後のひねりがあまりよく効いてない。
澤木喬「鳴神」
今これ読み中。昔読んだ『いざ言問わむ都鳥』はほとんど印象に残ってなかったりするんだけど、これは素晴らしい。この一作だけでもこの本買った甲斐があった。まるで小川国夫か丸山健二の小説を読んでるかのようである。ミステリとしてどうなのかはまだ未知数。残りが楽しみ。

2007年7月22日

鮎川哲也と十三の謎

ずっと昔に買ったままだった『鮎川哲也と十三の謎'90』(東京創元社)を読み中。

折原一「横溝正史の旅」
「本陣」「八つ墓村」「獄門島」の舞台をめぐる紀行文。
宮部みゆき「心とろかすような」
警察犬を引退して探偵事務所に飼われている老犬の一人称、おもしろいのは「俺」が近所の犬を相手に聞き込みにまわるハードボイルド風のシーンくらいで、その他は比喩や文体がことごとく鼻についてしまう。
辻真先「WHO ARE YOU?」
後年のフーダニット『真理試験』を思わせるような作品。
服部まゆみ「猫の手」
エクストレム『誕生パーティの17人』は90歳だったがこちらはなんと101歳のお婆さんの誕生日。今これ読んでるとこ。ほどよいブラックユーモアが上品で好印象。

ヨットクラブ

デイヴィッド・イーリイ『ヨットクラブ』(晶文社)を7/18に読了。これはすごい。作風は筒井康隆とか小林恭二みたいな感じ。表題作や「面接」あたりの作品には、サルトルの「ある指導者の幼年時代」とかつかこうへいの諸作に通じるテーマが垣間見える。「面接」は小劇場の二人芝居で観てみたい気がした。

2007年7月17日

誕生パーティの17人

創元推理文庫1987年。スウェーデンの作家ヤーン・エクストレムによる1975年の作品。

久々に読む本格物。たいそう面白かった。父親が死んだ翌日とかに娘たち(20代)が庭でバドミントンなんかするかなぁ(笑)といった疑問はあるが、かといって本格ミステリにありがちな「人間が描けてない」というほどではない。トリックがお洒落というかキュートで気に入ってしまった。

この人の作品は他には邦訳されてないようで残念。解説によると本訳書の刊行の過程もかなりたいへんだったようなので、そのせいでもあるんだろうか。

2007年7月15日

そして吉田秋生

amazonで『観用少女』を買ったらおすすめ商品に吉田秋生『海街diary 1 蝉時雨のやむ頃』というのが出てきた。説明によると「新境地に挑む」云々、レビューによれば「20年前の秋生さんに戻ったような」「情緒系」とあり、これは読まねばという気になりつつある。

それにしても吉田秋生というとなんとなく中央線沿線というイメージがあったんで、舞台が鎌倉というのがちょっと意外。

2007年7月14日

観用少女

昨日amazon.co.jpから川原由美子『観用少女』全2巻が到着。上巻一気読み。思い入れありすぎで書くと終わらなくなりそうだし、amazon.co.jpの書名もグダグダなんで、とりあえずデータ部分のみ記録しておく。

書名 発行日
上巻 『観用少女 -明珠-』(プランツ・ドール -めいじゅ-) 2006年12月30日
下巻 『観用少女 -夜香-』(プランツ・ドール -やこう-) 2007年 2月28日

上巻下巻というのは奥付の発行日や帯の惹句をもとにそう呼んでるだけで、本体にはどちらが上巻だとか第1巻だとかは特に記載されてない。

タイトル 初出 ソノラマコミック文庫
明珠 1 食卓のミルク '92年「眠れぬ夜の奇妙な話」VOL.10 『観用少女 1』 第1話
2 スノウホワイト '94年「眠れぬ夜の奇妙な話」VOL.18 『観用少女 1』 第3話 *1
3 空中庭園 '95年「ネムキ」VOL.23 『観用少女 1』 第7話
4 宝石姫 '95年「ネムキ」VOL.25 『観用少女 1』 第9話
5 天使の役作り '95年「ネムキ」VOL.26 『観用少女 1』 第10話
6 桃源郷 '95年「ネムキ」VOL.28 『観用少女 2』 第1話
7 サークル '96年「ネムキ」VOL.29 『観用少女 2』 第2話
8 蜜月 '96年「ネムキ」VOL.30 『観用少女 2』 第3話
9 空をとぶ夢 '96年「ネムキ」5月号 『観用少女 2』 第4話
10 '96年「ネムキ」9月号 『観用少女 2』 第6話
11 流砂 '96年「ネムキ」11月号 『観用少女 2』 第7話
12 "プレゼント" '98年「ネムキ」5月号
13 珊瑚 '98年「ネムキ」9月号 『観用少女 2』 第8話
14 オーロラ姫 '97年「ネムキ」3月号
15 ユメデアウマナザシ '99年「ネムキ」7月号
夜香 1 ポプリ・ドール '93年「眠れぬ夜の奇妙な話」VOL.16 『観用少女 1』 第2話
2 RAINY MOON '94年「ネムキ」VOL.20 『観用少女 1』 第4話 *2
3 ラッキードール '94年「ネムキ」VOL.21 『観用少女 1』 第5話
4 ブルードール '94年「ネムキ」VOL.22 『観用少女 1』 第6話
5 ミッシング・ドール '95年「ネムキ」VOL.24 『観用少女 1』 第8話
6 楽園の果実 '95年「ネムキ」VOL.27 『観用少女 1』 第11話
7 翠玉 '96年「ネムキ」7月号 『観用少女 2』 第5話
8 ムーンライト・シャドウ '97年「ネムキ」1月号
9 神様の盃 '97年「ネムキ」5月号
10 メランコリィの花冠 '98年「ネムキ」11月号
~'99年「ネムキ」1月号
『観用少女 2』 第9話 *3
11 夜来香 '99年「ネムキ」3月号
12 御喋りな墓標 '99年「ネムキ」9月号
~'00年「ネムキ」11月号
*4
13 冬の宮殿 '01年「ネムキ」1月号
+改稿分描き下ろし
*1
「スノウホワイト」はPart1とPart2に分かれていて、それぞれ別の話。しかしその構成は実に見事。
*2
文庫版目次での表記は「レイニイ・ムーン」
*3
文庫版では「'98年「ネムキ」11月号'99年「ネムキ」1月号」と記載されてるので前後編の分載と思われる。「ネムキ」が隔月刊なのかどうかとか、そのへんのことは実は知らない(笑)
*4
こっちは文庫版未収録なので細かい掲載号は不明。

2007年7月9日

完全(!?)殺人事件

クリストファ・ブッシュ『完全殺人事件』読了。なんだこりゃ。

理詰めではなく勘と地道な捜査で犯人を突きとめるというのは、まぁそれはそれでかまわない。しかし、トリックを見破るきっかけが地道な捜査の結果でもなんでもなく、都合よく配置されたまったくの偶然からでしかないことに唖然としてしまう。