E・D・ホックは木村二郎のマンネリ気味の訳が退屈で『サム・ホーソーンの事件簿V』も実はいまだに買ってなかったりする。
このアンソロジーに収録された「謎のカード事件」も、木村訳でこそないものの、主人公ランドのもとへ知人の遺児、それもしばらく会わないうちにすっかり美人に成長した娘が訪れ、
「あなたは暗号解読にかけては専門家だって、母が言ってたわ。頼りになるのはあなただけだって母があたしに電話でおしえてくれたのよ。それに、あたしはなにか困ったことがあるといつも年輩の方に相談をもちかけることにしてるの」
にわかにランドは自分が古代の遺物にでもなったように感じた。
などと書かれているシーンを読むと、なんだってアメリカの作家のギャグはこんなに自意識過剰で湿っぽいんだ、とウンザリしたりした。
また、クリーヴランド・モフェット「謎のカード」への解答としては「まぁ結局そういうことだったワケね」という感じで意外性もなんにもない。
が、独立した作品として見てみると、さすが短篇の名手と言われるだけのことはあり、特に伏線のちりばめ具合には目をみはらされる。宮原龍雄「新納の棺」についての編者の評にもあるが、やはりさりげなさというのは重要だなと痛感した。