2008年7月26日

ひげのある男たち

結城昌治『ひげのある男たち』(創元推理文庫)読了。

昭和30年代、市電と地下鉄が並存する東京。殺人事件が起こり警察が捜査にあたるが、とぼけた味わいの登場人物が多くのんびりとした雰囲気である。

なまじ文章が闊達でスラスラ読めるだけに、少しでも不自然な箇所はパッと目につき、犯人はわりと簡単にわかってしまう。だからといって単純な風俗小説というわけではなく、ことに犯人を絞り込んでいく過程はきわめて論理的であり、本格探偵小説の醍醐味を満喫させてくれる。

惜しまれるのは犯人の名が明かされたあとに謎解きがおこなわれるという構成になっている点であり、これはできれば消去法の果てに初めて犯人の名が指し示されるという形であってほしかった。もっとも、すべての本格ミステリがクイーンの『フランス白粉の謎』のようであるというわけにもいかないだろうが。

証拠品隠滅のトリックには気がつかなかった。これはなかなかいける。