山田正紀『風水火那子の冒険』(光文社文庫)読了。(表紙はノベルス版のほうがイメージに近いような気がするんだけど文庫で)
前半2作「サマータイム」「麺とスープと殺人と」には魅力を感じない。特に後者はギャグ漫画じみたノリが情けないし、それこそラーメンじゃないけどグダグダしてて胃にもたれる。
中篇だから緻密な推理の過程がないのは致し方ないにしても、タイトルに反して風水火那子が「冒険」してるようには全然みえず不満が募る。
が、後半2作でこの評価は一挙に覆る。
「ハブ」では1つの作品の中で全く別の2つの事件が提示され、まるで女囮捜査官シリーズのエッセンスがギュッと濃縮されたかのような読みごたえ。サスペンスとユーモアが見事にブレンドされた状況設定、小説としての構成の心憎いばかりの巧みさ、いずれをとっても文句なし。
最後の「極東メリー」は日本海への領海侵犯という時事ネタに古典的な幽霊船テーマを絡め、一種のファンタジーとしての仕上がりを見せている。ストーリー中に配置されたサブストーリーの組み込み具合もすっきりしていて印象がよい。
千街晶之氏による巻末解説では、以上4作に共通する点として
事件の謎そのものには関係がない筈の捜査関係者(またはそれに準ずる立場の人物)の日常や心情や生い立ちなどが、多かれ少なかれ描き込まれていること
が挙げられている。一瞬「それは『阿弥陀』からすでにそうだったのでは?」、また描かれる心情というのがときとしてショボいもの(特に「麺とスープと」の警部補!)だったりしたので「敢えて指摘するようなことなのか?」と思ったりしたのだが、そこから火那子シリーズの「隠しテーマ」へと掘り下げていく筆致はさすがであり、これくらいの解説がもっと増えてくれればいいのにとつくづく思った。